食事も其処々々に頬っぺたぁ膨らませたまんま、誰と約束してやがんのか知らねぇが、遣り戸ぉ勢い良く滑らせて弾む様に飛び出したなぁ、云わずと知れたはなまるさんでぇ。
表ぇ飛び出るや否やけたたましき響きも思わず両の長ったらしく伸びたぁ耳ぃ縮ませて小っつぁな掌に収めなけりゃぁ鼓膜が劈けちまうてぇくれえ盛んな鳴き声ぁ今を盛りの蝉時雨の玄関口のつい脇に陣取るぁ、飛びっ切り活きの良い一匹が此の時と許りぃ力の限りの大音声にて無理ぁ無ぇが、何もこんな処ぉ選ばなくたって見渡しゃぁ塩梅の好い樹だてぇ多かろうによぉ、なぁ。
扨、日付の移ろうとてお暑いのにゃぁ変わりゃぁ無ぇ昨日の今日は、アイスキャンデーに舌鼓ぃ打ち乍、昨日と同じく引く遣り戸の開きて登場と相成るはなまるを、本日は遠く聴こえる蝉時雨の不図目ぇ落としゃぁ…
然ればこそ命の限りの叫びたれ、腹も顕わに仰向けに、最早ピクリとも動かねぇ無惨な屍晒すなぁ、昨日日がな一日、目一杯鳴き続けた蝉に違げぇ無ぇ、祇園精舎の鐘の音ならぬ蝉時雨とて、斯くも諸行無常たる響きを含じたるものよ、合掌。
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